米国ガソリンステーション事情

ガスステーションがガス欠になる時...

                     from ビジネスウィーク誌 '08/6
 高値のガソリンに悲鳴をあげているのはなにも消費者だけではない。実はガスステーションのオーナーたちもあまりの高値にガソリンが買えなく困っている。
 ガス欠のガスステーションが増えているからといって驚いてはいけない。パニックに陥るのはもってのほか。別に1970年代のようなガソリン不足になっているわけではない。  ガスステーションで起こっていることは、

  マージンの縮小だ。

クレジットカード会社が請求する手数料がガロンあたりのコストを押し上げ、ガスステーションは銀行と取引するために働いているようなものだ。そして忘れてもらって困るのは、わずか数セントに縮小してしまったマージン。消費者はかってないほど安値買いに走る。結果として、カズステーションのオーナーは、事業継続ができなくなるか、かろうじて生き残っているかだ。  多くのガスステーションはすでに赤字経営にある。業界専門誌「ナションナル・ペトロリアム・ニュース」によると、昨年、全米16万4,292ヵ所のガスステーションのうち、3,184ヵ所が店仕舞いを余儀なくされ、業界から姿を消した。これは過去5年で最大の減少幅となるものだ。1990年代半ばに20万ヵ所以上のガスステーションがあったことを考えると隔世の感を覚えるだろう。専門家によると、閉店はまだまだ増えるという。 世界最大の一貫操業の石油会社エクソンモービルでさえも小売事業から撤退する時代なのだ。
6月12日、テキサス州アービングに本社を置く同社は2,225ヵ所にのぼる自社所有のガスステーションおよびコニビニを売却すると発表した。

最も打撃を受けているのは独立系

 しかし、本当に打撃を受けているのは独立系のステーションオーナーたちだ。たとえばエラネル・ミラーの場合。彼はフィラデルフィア州ピッバーグ郊外のボルドウィンでガスステーション1店舗と自動車修理ショップ1店舗を31年にわたり営んでいる。しかし、最近、彼はガソリンを1ガロン売るたびに損失を出している。ここ数週間は地下タンクをいっぱいにするだけのガソリンを仕入れるだけの充分なキャッシュにも事欠き、仕入れができず、ガス欠に陥った。「事態がさらに悪化するようだと、ガスステーションを閉め、修理ショップだけに頼ることになるだろう」とミラーは嘆く。「破産はしたくないしな」。  ミラーのような中小独立系ガスステーションが苦しめられている背景はこうだ。彼はガソリンを地場の卸業者からガロンあたり4.04jで仕入れ、4.09jの店頭値で販売している。しかし、クレジットカード会社が請求する手数料がパーセント・ベースでかかってくるため、店頭価格が上昇すれば、それに比例して、カード手数料も上昇する。それだけで彼の利益は吹っ飛ぶ。  ミラーはいう。クレジットカードの手数料はいまやガロンあたりで約5kにも達する。これはすなわち、直接、間接の経費を含めると、持ち出しになっているわけで、文字どおり損を出すためガソリンを売っているようなものだ。仮に修理ショップがなければ、とっくに廃業していただろう。 

キュッシュ不足で走るガスステーション

 クレジットカードによる売上が多い他のガスステーションオーナーたちにいわせると、カード手数料は平均でガロンあたり10〜12kにも達する。タンパに本社を置くウイリアムズオイルでガソリン販売を担当するマイク・コンベイによると、さらに事態を悪化させているのは、給油客のクレジットカード支払い比率が急増していることだ。約4年前までは、彼の会社が所有する20ヵ所程度のガスステーションで給油客のクレジッカード支払いは全体の約25%に過ぎなかったが、現在ではこれがおよそ75%まで上昇しているという。当然、販売する側にとっては、クレジットカード手数料が嵩むことになる。  嵩むコストを店頭価格に転嫁する小売業者はほとんどいない。しかし、ニュージャージー州ラベレッテでスノコマークのケリーズ・シーベイ店を運営するオーナーのポール・ケリーは、ガロンあたり12kの手数料をクレジットカード支払いの給油客向け価格に上乗せし始めた。なぜそうしないと彼はいう。それだけで年間2万jの利益に寄与することになるのに、そうしなければ儲けを出すことはできないのだから。  クレジットカードの手数料問題とは別に、キャッシュ不足に陥るガスステーションが増え、充分に仕入れができないことも事態を厳しくしている。
価格情報提供会社OPIS(オイル・プライス・インフォメーション・サービス)のベン・ブロックウェルによると、こうしたガスステーションは手元の現金が少ないために、地下タンクの在庫を最後まで売り切らないと現金が手元に集まらず、売るべきガソリンも仕入れられないという。  中小の独立系ガスステーションにとって、資金流動性が問題になっているとゴロックウェルは指摘する。かれらは3万4,000j相当のガソリンを仕入れ、それをわずか2日間のうちに支払わなければならない。しかし、売れ行きしだいで、時として、タンクには例えば1万j相当のガソリンが在庫として残っていることもあるわけだ。それはとりもなおさず、1万jの現金が次ぎの仕入れを行ううえで、ショートすることを意味する。結局、フル・オーダーせずに、ガス欠のリスクを背負うことになる。与信問題は忘れることだ。 所詮、銀行というものは、いわゆる三ちゃん経営の中小ガスステーション(mom-and-pop shops)に与信枠を広げるなどということなどしない。ブロックウェルはいう。「一部のディーラーは仕入れを増やすことができず、地下タンクの4分の1、あるいは半分といった量での仕入れを行っている」。

死に絶える競走...

 この先も仕入れるガソリンは潤沢に供給されるだろう。実際、ガソリンおよび石油価格が上昇を続けた過去3年の間、ガソリンの不足が起こった形跡は供給チェーンのどこにもないと、ピッッバーグのガソリン卸会社スペリアーペトロリアムで流通マネジャーを務めるドン・バウワーは言い切る。同社は30ヵ所の自社ガスステーションも運営している。  今後、起こるであろうことは、シーツやセブンイレブンといった大手小売資本所有の店舗が増えれば増えるほど、中小業者の店舗は片隅に追いやられるということだ。
 しかし、そのとき最も打撃の受けるのは、ほかならぬ消費者だろうとコンベイはいう。競争がなくなれば、間違いなく店頭価格は競争があったときよりも数セント高くなる。  ニュージャージーでスノコのフランチャイズ店を営むケリーはいう。26年間、ガスステーションと修理ショップを営んできた自分の店舗の13マイル四方では間違いなく競争は死に絶えつつある。地域にあったガスステーション6店舗のうち、3店舗が姿を消した。さらに1店舗は5年もの間、売りに出されている。彼は考える。今後、売りに出されるであろうエクソンのガスステーションは、高価なビーチのコンドミニアムに化けるために売却されのではないかと。  ケリーのガスステーションは、年間にしてほぼ200万ガロンを売り上げるが、昨年は他のステーションが廃業したことで、50万ガロン相当の販売増となった。

ガスステーションが閉鎖を続け、売却され続ければ、「俺もここでは独占者(モノポリー)として君臨できるんだがな」と彼は笑った。


    カルフォルニアのケース


                       Sunday, November 20, 2005
 ガソリンの価格高騰は必ずしもサービスステーションのオペレーターを豊かにしているわけではない。リカルド・タンに訊くがいい。
 昨年、小売価格は史上最高を記録したが、それでもリカルドのバークレーにあるステーションを救うことはできなかった。
問題は立地ではない。リカルドのシェルのステーションはユニバーシティーアベニュー(大学街)と接し、近くにフリーウェーがあるため、
交通量は多い。立地は申し分がない。 リカルドのステーションを所有する巨大石油会社シェルは、貸借料を大幅に引き上げた。
1990年代末にリカルドが支払っていた貸借料は月間2,000jだったが、2001年に7,900jに引き上げられ、翌年には8,600jとなった。
そして今年、シェルが請求しているのは1万1,710j。これにはクレジットカードの処理手数料やステーション維持費として支払う
月次費用は含まれていない。  

リカルドは利益など出るわけがないと思った。そして、ステーションから手を引き、シェルに返上することにした。
 「ステーションを運営するということは、だれにとってもニッケル(5セント銅貨)やダイム(10セント白銅貨)を巡る戦いでね。
必ずしも楽に生計を立てられるわけじゃない」と48才のリカルドは言う。  
多くのディーラーは、2005年の石油業界が巡り合った思いがけない幸運は自分たちとは無縁と口を揃える。彼らが販売するガソリンを
供給する石油会社は、史上最高の利益を計上している。たとえば、7〜9月期の利益が990億jに達したエクソンモービルのケースに
代表されるようにだ。原油価格が一時的にバレル70jを突破し、ガソリン価格もガロンあたり3j(1ガロン=3.785g)を上回るといった
油価の高騰が巨額の利益に背景にあったことはいうまでもない。
 怒れるドライバーは、価格吊り上げにあっていると思い込み、ステーションのカウンターに立つ店員に向かって、しばしば怒りを
ぶちまけるということになる。 しかし、ディーラーにマージン(profit margin、純利)を訊くと、ガロンあたり2セント(1j=117円で試算すると、
gあたり0.62円)かあるいはそれ以下だと言い張るではないか。それどころか損を出しているかもしれないともいう。  
これを理解するためには、表には出ないロードサイドのガソリン価格構成を知らなければならない。ディーラーは互いに競争する一方で、
多額の費用をガソリンを供給する石油会社に支払わなければならない。政府は政府で税金などを通じ、自らの取り分を要求する。  

ステーションはすべて同じように運営されているわけではないことを理解することも必要だ。BP、シェブロン、シェルなどといった
ビッグ・ブランドのガソリンを販売するステーションがある一方で、ノンブランドのガソリンを販売する独立系ステーションもある。  
さらにブランド・ステーションの間にも大きな違いがある。多くは石油会社から借り受けたステーション施設をフランチャジーとして
ディーラーが運営し、店頭価格もディーラー自身が設定する。ほかは石油会社が直接運営するもので、1人のマネージャーが数カ所の
ステーションを監督する。 大手石油会社は自らが運営するステーションでは安値にも高値にも好きなように価格を設定することができる。
しかし、フランチャイジー、つまり、ディーラーが運営するステーションに対しては価格を支配することができない。
ディーラーは自らの決定で運営する自由がある。  

「シェルのステーション運営者は、独立した事業者であり、自ら決定を下し、彼等が妥当と信じる水準に価格を設定する権利があります」
とシェルの女性広報担当者は話す。
 しかし、実際は違う。ディーラーに完全な自由はなく、石油会社から課せられる費用や要件が店頭価格設定にあり方に大きな影響を与える。
 「法律は石油会社が店頭価格に口出しすることを禁じているし、実際に石油会社は直接、口出しすることはないけど、石油会社はディーラーに
店頭価格の上げ下げを強いるように卸価格を設定しているからね」とサンフランシスコでシェブロンのステーションを運営するディーラーの
ビル・カリーは説明する。

 ビッグブランド・ステーションのディーラーは、販売するガソリンをサインポールを掲げる石油会社から仕入れなければならない。
それは他から安価なガソリンの仕入れが可能であってでもだ。
 そして、石油会社がディーラーに供給するガソリンの卸価格は場所によって異なる。これは”ゾーンプライシング(いわゆるゾーン仕切り)
”システムと呼ばれるもので、同じ石油会社の同じガソリンであっても、サンフランシスコのマリナ地区のディーラーへの卸価格とミッション地区の
ディーラーへの卸価格が同一とは限らない。ディーラーにとっては不満のタネだ。 「ゾーンプライシングは保険業界におけるレッドライニング
(赤線引き=都市内の老朽・荒廃地域に対する担保融資・保険引き受けの拒否)以下の方策」とカルフォルニア・サービスステーション・自動車
修理協会の専務理事であるデニス・デコタは言い切る。
 ディーラーはまた、石油会社が決めたクレジットカードの処理手数料を毎月支払わなければならい。同時にステーションの設備維持費も、
修理が必要であろうがなかろうが、毎月支払うことになっている。・・・ そして貸借料だ。

 リカルドが経験した急激な貸借料の上昇は決して特殊なことではない。過去5年の地価高騰はカルフォリニア全州に及んでおり、
多くの石油会社は貸借料を、ディーラーがいう支払いが不可能になる水準まで引き上げている。もっとも石油会社にいわせれば、
貸借料の上昇は単に市価を反映したに過ぎないということになる。  
「現在の貸借料体系は、不動産価値の上昇をベースにしたもので、代表的な不動産市況を反映したものです」とシェルの女性広報担当者。
 ディーラーは、もし貸借料を不動産市況に連動させるのであれば、サンフランシスコのように地価が高い都市ではガソリンステーションが
なくなってしまうと主張する。 ガソリンステーションの店頭価格から、月次費用や経費をすべて差し引くと、残りはほとんどない。
あるベイエリアのディーラーが匿名を条件に明かしてくれた月次コスト内訳はこうだ。


    j/ガロン 円/g換算* *円/g換算は1j=117円で試算、1ガロン=3.785g。
     ガソリン店頭価格 2.499 77.25
     ガソリン仕入価格 1.830 56.57
連邦・州税 0.570 17.62
貸借料・維持費など 0.130 4.02
クレジットカード手数料 0.050 1.55
欠減 0.080 2.47

 結果として、このディーラーはガロンあたり約8セントの損失を出していることになる。これには彼自身はもちろん、従業員への給料も保険も、
小さなビジネスを運営していく上でかかる様々なコストも入っていない。
 匿名を条件に詳細を明かしてくれた他の複数のディーラーも同様の数字となっていた。ガソリンの仕入価格は、ゾーンプライシグの影響で、
ガロンあたり11セントもの開きがあったにもかかわらずである。ガソリン販売で損失を出しているディーラーは、洗車やスラーピー(シャーベット状
の炭酸飲料の商品名)の販売など他の方法で利益を上げなければならなくなる。
 ディーラーにとっては、石油会社が課す高コストがフランチャジーを廃業に追い込み、自らの社有ステーションに取って替わろうとする試みにも映る。
そうすることによって、石油会社は小売価格に対する支配を強めようとしているのだと、ディーラーはいう。

 「想像してほしい。奴ら(石油会社)がすべてを所有した場合のことを。奴らはやりたい方法で好きなように価格をコントロールできるわけだ」
と前出のシェブロン・ディーラーのビルは言う。「奴らは俺たちのケツを蹴り上げているのさ。それができるんだね、今は」
 ただ、シェブロンの広報担当者は「当社の社有ステーションは実際のところ、ここ数年減少しています。
これは投資方針の決定の結果です」と述べている。

 カルフォルニアのシェル・ディーラーのグループは、シェルに対し、自分たちのビジネスを破壊しようとしている疑いがあるとして、裁判に訴えている。
35人のディーラーからなる原告団は、シェルは社有ステーションを使い、フランチャイジーを窮地に追い込んでいると訴え、
社有ステーションに対する卸価格はゾーンプライシングを通じ安値に設定されているなどと主張している。
 シェルの女性広報担当者は裁判について、詳細に言及することを避けているが、
「今日の市場において一部のディーラーが競争できなくなっていることは残念です。ただ、シェルが不法な行為を働いているという証拠はどこにもありません」
と述べ、同様の訴訟が過去においてシェルに対し、なされているが、シェルが敗訴したことはないと付け加えた。  

しかし、ディーラー勝訴のケースも一つある。ボストンの陪審が昨年、マサチューセッツの一部ディーラーに対し、
シェルによる不当な行いがあったとの評決を下したことだ。ただ、これに対しては控訴がなされている。
 リカルドはシェルに対するカルフォルニア訴訟の原告団に加わった。同時にバークレーでシェブロンのステーションを買い取り、
ステーションビジネスへの復帰も果たした。リカルドによると、シェブロンの彼ら対する扱いは良好だという。もっとも利益率は高くないが…。
「俺にはフィリピン出身の友達がいて、彼らは『お前は金持ちに違いない』と言うんだ。それで俺は言い返してやったよ

『ガソリンでそんなに大儲けはできないよ』とね」。
                          ・・・終わり


  挑戦するステーションオーナー

              先物市場利用の試み


                      all Street Journal June 20, 2005
1950年代、少年だったウォルト・ドウェルは、家業のガソリン・ステーションを手伝うのが好きだった。
価格が上昇すると、ドウェル家の人たちはブルーのテンペラのペイントでブッチャー・ペーパー(肉屋で使う包装紙)に
「19.9セント」などと書いて、ステーション前の価格表の上にテープで張った。給油客は流れるように入り、家業は繁盛した。

しかし、最早、そんなに容易いものではなくなった。ガソリンステーション・ビジネスは現在、混乱の最中にある。
それはエネルギー価格の大きな変動によるところが大きい。原油価格が再び史上最高値を塗り替え、ガソリン・ステーションの
オーナーたちは誰がまあまあの条件で仕入れができているか知ろうと必死だ。ステーション運営のマージンは、
家族経営(mom-and-pop、いわゆる三ちゃん経営)の独立業者からエクソンモービルなどの大手石油会社運営の
社有ステーションに至るまでかなり薄くなっている。

ドウェル氏やその他の独立系ステーション経営者は現在、自らの運を生き馬の目を抜く商品先物の世界で試している。
仕入れコストを安定させ、利益を上げる取引戦略が見つかることを願ってのことだ。この新世界では一つの判断の誤りが
破滅をもたらすこともあり得る。しかし、これら神経質なルーキーたちの一部は成功している。
昨冬、ドウェル氏と彼の3人の兄弟は彼らが取扱うガソリンの25%を先物市場の取引によって安値で固定した。
これによって100万ドル以上の仕入れコストを節約した。3月、上昇一途の油価はピークを迎えつつあるとの読みに賭け、
見事に的中させた。現在、彼らは一段高を見越し、ヘッジしている。全体として、先物取引のおかげもあって、
彼らの収支は過去13カ月うち、10カ月が黒字となった。

慎重に商品市場に参入したが、「最初、おののきを感じた」と57才のドウェル氏は言う。利益と損失の振幅は巨額になることもあり、
予想もつかない。それは長年にわたりキャッシャーを雇うことやスナック棚が常にちゃんと商品で埋められているということに
気を配りながら過ごしてきたマネシジャーにとってはとくに慣れないことだ。
しかし、その慣れないことに飛び込んでいるステーション・オーナーが増えつつある。業界コンサルタントによると、
約20%のステーション・オーナーが今や先物市場を利用しているという。20年前まではほぼ皆無だった。
もちろん、これらステーション・オーナーによる先物取引の規模は、何十年もにわたり先物市場で活発に取引してきた
シェブロンやエクソンモービルなど大手の一貫操業石油会社とはもちろん比較にはならない。

現在、全米のガソリン・ステーションは16万9,000カ所。このうち大手石油会社が所有する、いわゆるカンパニー・ステーションは
約5%。これら大手石油会社と契約を結びサインポールを掲げて運営するステーションが約60%を占めている。残りの35%は、
オフブランドの独立系ステーションである。業界は多年にわたり整理・淘汰を続けてきた。それは環境規制の強化、自動車
サービスからの利益低下、旧来のステーション3〜4カ所を置き換えてしまう巨大ステーションの登場に直面し、強いられたものである。
結果として、全米のステーション数は1994年から17%も減少した。

ステーションの運営者はこれまで次に入ってくるトラック(タンクローリー)に積載した燃料油の仕入れコストに思い悩むことはなかった。
精製会社は一般に非系列向けノンブランド品を系列向けのブランド品より約2〜3%安く仕切る。これはブランド品に商品としての
力があり、より意匠を凝らした添加剤を含んでいるためだ。この価格差が安価で飾りのない代替品を販売する独立系業者の
足場を固めてきた。大体の場合、卸価格は油価の下落や上昇の際、一律に調整されてきた。だから、ステーション運営者は
単純に卸価格の変動分を小売価格に反映するだけでよかった。給油客は文句を言うかも知れないが、エネルギー価格の
大幅な変動もステーション間の競争のバランスをほとんど変えることはなかった。

しかし、過去18カ月間で2つのことが大きく変わった。
一つはエネルギー価格の激しい変動がステーション・オーナーを仕入れタイミングについて時間刻みで気にさせることになったことだ。
相場の谷でより多くを仕入れ、ピークで仕入れを減らすようになった。今年のガソリン卸価格は1日のうちにガロンあたり10セントも
変動することがあった。そのような時、ステーション・オーナーの最も重要な決断は火曜日の午後の価格で値かタンクを補填するか、
それとも翌朝まで待って価格が下落するのを待つかといった類のものだ。
2つ目は、ノンブランド・ガソリンが最早、ブランド品に比べ常に安いという時代ではなくなったことだ。時として精製会社は
ノンブランド品価格を吊り上げ、系列ブランド・ステーション向け価格を相対的に割安にする。また、ある時は製油所の
トラブルなどで供給不足に陥ったり、投機筋の買い占めでノンブランド品市場の価格がだれもが予想もしなかった
水準まで急騰してしまうというケースもある。

競争力を維持するため、安価なノンブランド品への供給に頼る独立系のステーションにとって、「タフな時代になった」と
OPIS(Oil Price Information Service=石油価格情報サービス社、米国を代表する石油卸価格の調査会社)のアナリスト、
マリー・ウェルジ女史は言う。「かつて彼らは何世代にもわたって一つのマーケット・ダナミックスにならされていたわけで、
今や彼らは殺されそうなのよ」。

伝統はドウェル家のビジネス、ネラオイル社(Nella Oil Co.)に根深く流れている。社名はドウェル兄弟の祖父、
ウォルター・アレン(Walter Allen)に因む。ウォルターは1931年にガソリン・ビジネスに入った。社名のネラ(Nella)は
アレン(Allen)を逆に綴ったものだ。17.25セントと表示している由緒ある黄色と赤のポンプは、ネラオイル社本部の
ロビーを優雅に飾っている。
ファミリーのメンバーによると、近親者で固められてきたネラオイル社は、好調な時には年商約7億ドル、純益で
少なくとも1,000万ドルを計上するという。ネラは23カ所のディスカウント・ステーションを所有し、フラヤーズと
オリンビアンの独自ブランドで運営している。さらに27カ所のステーションをエクソンモービルや他メジャーの
ブランドで運営。同時に燃料卸売とトラック(タンクローリー)配送も、中部および北部カルフォルニアで展開する。

「人は俺たちのことを大恐慌時代の倹約精神と軍事教練の混合物と呼ぶんだ」とウォルト・ドウェルは話す。
ウォルトはネラ社の統括役であり、1971年に家業のビジネスに入る前は、海軍のフライトオフィサーとして5年の
軍隊経験があり、エジプトでソ連の軍事施設を監視してきた。彼の2人の兄、67才のトムと64才のスティーブは
ともに空軍のパイロット上がりで、ベトナムでの戦闘に参加していた。弟のデービッドは56才で、唯1人軍隊経験
がなく、ソーラーエナジーの専門家である。兄弟4人とも、ジェネラル・マネジャーのリック・テスケとともにネラの取締役だ。

何十年にもわたって、ネラは燃料油の仕入れにそれほどの関心を払ってこなかった。経営陣はむしろステーションの
看板、クリンリネス(清潔さ)やオンサイトのスナックなど他領域に焦点を当てていた。ガソリンはほぼ毎日、条件は
どうあろうとマーケットが定めるところで仕入れ、何カ月も先まで保証された価格での供給約束をしたがらない
サプライヤーに従ってきた。
ネラの取締役会ではここ数年、この受身のアプローチが非難を浴びた。「価格の下降局面では我われはよくやって
いることは分かっていた」とスティーブ・ドウェルは振り返る。コスト切り詰めはゆっくりと給油客に転嫁できた。
そのことでマージンも膨らんだ。しかし、製油所出荷価格が急騰すると、ステーションの店頭価格はついていけず、
ネラのマージンは急速に薄くなった。

    スティーブが説明するには「我われはマーケットのレーザー・ビーム攻撃に対し、
     これをガードする防衛メカニズムを必要としていたんだ」という。

ネラでは一時、燃料油のトレーダーを外部から雇ったが、2002年になって結局、解雇した。
トレーダーの取引のやり方があまりにも早撃ちすぎて、利益が上がらないと経営陣には映ったからだ。
ドウェル兄弟は再編成し、彼ら流のやり方を理解してくれる誰かに頼ろうと決めた。それでドロレス・サントスに
目を向けた。サントス女史はステーションのキャッシャーから転じてネラの供給・流通マネージャーになっていた。

サントス女史は2004年春からニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)でガソリン先物を買付け始めた。
毎月、30枚。先物契約とは将来のある時期に受渡しする商品を取引するもので、取引単位のガソリン1枚は
オクタン価87の無鉛物で4万2,000ガロン(1,000バレル)である。これはネラのアウトレットで1日に販売する量の
約4分の1に相当する。ネラは実質的に将来のガソリン仕入れを予め決めた価格で固定することになった。
その価格が最終的に特価となることを願ってのことである。

NYMEXでは毎日、10万枚(1億バレル)ものガソリンが取引される。取引しているのは主に大手石油会社、
ウォールストリートにオフィスを構える証券会社、投資銀行、ファンドなどである。だから、国際マーケットはネラの
取引活動による小波などほとんど感じはしない。
サントス女史は同時にちょっと複雑な「スワップ」についてもエネルギートレーダーと取引を開始した。
カルフォルニア独特の環境対応型ガソリンの将来の価格についてヘッジするものだ。ガソリン価格が上昇すれば、
先物やスワップ契約はより有益なものとなる。しかし、ガソリン価格が下落すれば、そうした契約は損失を生むことになる。
ただ、その損失はネラのステーション・ビジネスからの儲けが膨らむため、結果として相殺される。

最初、すべては上手く進んだ。ネラが初期に買ったガソリン先物はガロンあたり1.30ドル(これは小売段階で
付加される50セントもの税金は含んでいない)だった。2004年半ばにエネルギー価格が上昇すると、ネラがロックした
先物の価格はマーケット価格をかなり下回ることとなった。そこでネラは買った先物を納会まで抱えて、NYMEXを
通じて現受けするのではなく、納会の1〜2週間前に手仕舞い売りし、そこで得た利益を通常のガソリン仕入れに
支払う代金として使用した。ドウェル兄弟もサントス女史も喜び飛び上がった。

2004年も秋口になると、石油価格は下落し、ネラの先物ポジションは壊滅的になった。サントス女史は打ちひしがれた。
夜中の2時まで寝付かれず、MSNBC(マイクロソフトとNBCが共同で運営するニュース専門チャネル)のビジネスニュースを
暗闇の中で見たことを思い出す。「イラクでは戦争が続いてて、私はそれがフレスノのディーゼル価格にどんな影響が出て
くるのか心配しなければならないの」と同僚に話したことを今も思い出すと彼女は言う。オフィスで彼女は時々、パソコンの
上に置いている小さなトラのぬいぐるみを掴み、同僚に投げつけてストレスを発散した。
元気づけてもらうため、サントス女史は毎日数時間をクリス・メニス氏と話す。クリスはエネルギー市場で25年ものキャリアを持つ、
ベテランのコモディティ・ブローカーである。彼は暇な午後にサーフィンが楽しめるように、数年前、カルフォルニア中部の
海岸の町、アプトスに越してきた。彼の会社、ニューウェーブエナジーはネラのすべての先物取引に関するブローカーとなっていた。
「クリスは私の牧師さんであり、母親であり、そしてカウンセラーでもあるわ」とサントス女史は言う。
「私がなにか愚かなことをやろうとすると、私に大声で叫ぶのよ」。
メニス氏はサントス女史にエネルギー価格が自分の思う方向にこないときに無茶な取引をしないよう諭したという。
そんな時は先物ポジションを徐々に、日ごとに減らすこと、とアドバイスした。そして、発作的にネラの
すべての手持ちを一挙に投げ売らないこと。

「リスクを軽減するために先物取引しているの? それとも投機のため、儲けようとしているの?」
とメニス氏は繰り返し繰り返し訊いた。日々変動するマーケットの曲折の裏をかくことで大儲けをしようと夢見るのは投機家だけ
とも諭した。緩やかなアプローチは利益を得るであろう最後の1セントまで掴むことはできないが、間違った勘をもとに
高くつく取引に対し、ガードとなり得る。
ネラの本部でウォルト・ドウェルはコンピュータのスクリーン上に映し出される石油関連ニュースと変動する価格ボードに
あたかも催眠術にでもかけられたように食い入っていた。「まるでテレビゲームだね。これは」と彼は言う。
「いったん、スクリーンを見出したら、止められなくなっちまう」。2004年10月、原油価格はバレル55ドルだった。
2カ月後には41ドルまで下落した。暖冬のため、暖房油需要が減るとの観測が下落の背景にあった。しかし、それから
原油価格は反騰に転じ、1月には48ドルに戻し、4月初めには58ドルに達した。
中国の旺盛な需要とさらに高値を追うというウォールストリートの読みが後押ししたためだ。

その価格の動きは犠牲を強いた。ガソリン価格がガロンあたり2ドルを超えたのである。ネラのステーションでは顧客が
オクタン価91のプレミアムガソリンを給油するのをほとんど止めた。金持ちのBMVやコルベットの顧客まで割安な
オクタン価87のレギュラーガソリンを給油しはじめた。しかし、このシフトはネラにとって最大級のマージンをもたらす
給油客の流れを失わせた。

一方、カルフォリニアの製油所トラブルはノンブランド・ガソリン価格の高騰を招いた。生産力以上の供給先を抱え、
精製会社は彼らのブランド品を販売するステーションに最善の取引を提供し、他に対しては卸価格を吊り上げた。
この結果、ネラのフライヤーズとオリピアンの独自ブランドを掲げるステーションは著しく不利な立場に置かれた。
仕入れ値が高騰しているわけであるから、選択肢は仕入れコストの上昇分を小売価格に転嫁して、給油客の流れを失うか、
それとも小売価格をそのまま安値に維持し、マージンが飛んでいくの指をくわえて見ているかのどちらかである。

2005年初め、カルフォリニアでは数週間にわたり給油レーンを閉鎖するオフブランド・ステーションも出た。
濃い黄色のテープがかつては喧騒に満ちた給油レーンからモーターリストの進入を阻んだ。スナック・ショップだけが
営業を継続し、コーヒー、ドーナッツ、ビールを呼び売りした。ノンブランド・ガソリンの卸価格がブラント品に比べガロン
あたり15セント以上も高値となってしまえば、そうしたオフブランド・ステーションが給油客を魅了する方法は、
破滅的なロスを出しながら販売する以外になかっただろう。

ネラはふんばりたかった。3月、サンフランシスコでデナーをともにしながら、ウォルト・ドウェルはとある精製会社の
トップにノンブランド・ガソリンについて、価格を一時的に負けてくれないかと要請した。返事は後になって正式な
高値のオファーという形で戻ってきた。その時点ではその価格もネラにとっては耐えられるようになっていた。
要請はムダだった。「彼は申し分なく誠心誠意だったよ」とウォルトは振り返る。「彼の結論は『マーケットが機能するとは
そういうことで、我われはマーケットを尊重する』ということだったわけだ」。

ネラにとって幸運だったのは、サントス女史が絶好調だったことだ。2005年1〜3月期、彼女のトレーディングは
150万ドルの利益をもたらした。ネラのステーションでの損失を相殺するには充分ではなかったが、
それでも1〜3月期の収支をより耐えられるものにした。

2005年3月半ば、ネラの経営陣とアドバイザーは集まり、原油価格がバレル50ドルを大幅に超えて上昇し
つづけるかどうか話し合った。何人かはイエスと言った。しかし、ウォルトは、価格バブルは弾けようとしていると主張した。
彼は、ネラはすべての先物のポジションを、予定より数カ月早いが、直ぐに手仕舞い売りしようと決めた。
それはそうすることによって会社が余分な利益を確保できるとの考えからだ。
ウォルトの決断は短期的に期待の成果を上げるに至った。原油価格が4月に50ドルを割り込んだからだ。
しかし、ネラのコモディティ・ブローカーであるメニス氏は、ヘッジしていなければ、ネラは次ぎのエネルギー
価格上昇に耐えられなくなると心配した。そこでドウェル兄弟をすぐさま説得し、別のトレード戦略に着手するよう促した。
そのアプローチはオプション(訳注=この場合はコールオプション)を買うことだった。
オプションとは将来に受渡する商品を決められた価格で買付ける権利を与えるもので、買付ける義務は発生しない。
この場合、莫大な量のガソリンを夏場にわたりガロンあたり1.95ドルで買付ける権利を得ることだ。もし、価格がその水準を
下回って推移した場合、オプションの権利を行使せず、取引は無益に終わる。しかし、ガソリン価格が急騰した場合、
オプションはネラに市場価格以下でガソリン供給を得ることを可能にする。
これまでのところ、ネラは1.90ドルのオプションを手仕舞ってはいない。というのもガソリンの卸価格は引き続き1.95ドルの
分岐点の下で推移してきたためだ。しかし、原油価格が昨日(6/20)、バレルあたり59ドルを上回り、ガソリン卸価格は
ネラの保有するオプションが重要な意味を持つ水準に近づきつつある。
一方、ドウェル・ファミリーの第4世代の2人がネラでの仕事を始めた。彼らは伝統的なマネジメント・プログラムのもとで
訓練を受け、ガソリン・ステーションをどう運営していくかを学んでいる。しかし、そのうちの1人、トム・ドウェルの息子、
ケン・ドウェルはサントス女史のもとで見習として先物取引を学び、数カ月を過ごそうとしている。

「これをやる機会に飛びつきました」とケン・ドウェルは言った。
              「これ以外に我われの将来にとって重要なことは思いつきません」。
                     ・・・終わり


      <メリーランド州ボルチモアのケース>


                                     June 23, 2004
 マーク・クラッグはローズデールのサービスステーションをエクソンからリースし、エクソンからガソリンを仕入れ、
そしてエクソンに金メッキのブランドネームを使用するブランド料を支払っている。  

しかし、マークは同時にティモニアムとエリコットシティーに”ペトロ”という独自ブランドのステーションを所有し、
そこでは最安値を提示する流通業者からノンブランド・ガソリンを仕入れ、クルマのタンクを満たすことに
”タイガー”ブランドなど気にしないドライバーに安値でガソリンを提供している。
 “ペトロ”のようなステーションは、知名度があり、広く販売されているブランドが持つマーケットパワーには劣るかもしれない。
しかし、そうしたステーションはだいたいエクソンやシェル、BPアモコといったロゴを掲げるブランドステーションを価格で
打ち負かし、そうすることでより多くの利益を上げている。
しかも、ガソリン店頭価格が急騰しているような時には、それはノンブランド・ガソリンのディーラーにとって商売繁盛を意味する。
 「ドライバーのガソリンに対する認識は変わりつつあって、彼らは最早、ブランドネームなんか気にしなくなっているんですよ」と
米サービスステーション事業者商業連合会の専務副理事であるポール・フィオロは明かす。
 ガソリンディーラーとして、マークはプランドとノンブランド・ガソリンの2つの世界に精通している。
「私の片足は桟橋にあり、一方の足はボートの上にあってね」とマークは話す。「エクソンとは彼らのレフリーの
フットボールを使って、彼らのフィールドでフットボールをプレーし」、彼自身が所有する”ペトロ”ステーションでは
「グランドはもちろん、なにもかも自前だから、自分たちが望む製品を好きなように自分たちのやり方で売ることができる。
俺たちは何にせ本当にちっぽけな石油会社だしね」という。

 地域のほとんどのステーションがレギュラーガソリンをガロンあたり2.03jから2.09jで販売している時に、
マークの”ペトロ”ステーションは1.99jで販売している。結果として、給油客は殺到し、売上が増え、利益は上がっている。
 つい最近のある朝のことだ。メリー・フィールズは、サインポールのブランドネームでなく、価格看板だけに引きつられて、
”ペトロ”ステーションに入った。「価格を見て、必要だったから入っただけよ」とエリコットシティーで家業のレストランの
マーケティングを取り仕切るメリーは話す。ランドローバーのタンクをプレミアムガソリンで満タンにした。
「価格を見たから入ったわけで、プレミアムガソリンを給油するのなら、価格に気をつけなくちゃね」という。
      “ペトロ”という名前に馴染みがないことに問題はないのか?
       「全然ないわね」と彼女はいい、サインポールを初めてちらりと見た。


 ジョン・キングは引退後の生活をティモニアムで送っている。いつも同じ”ペトロ”のステーションでクルマを満タンにする。
ガソリンを安価で給油できるノンブランド・ステーションがあるのにブランド・ステーションを選ぶ理由などないからだ。
「みんな同じさ。ガソリンはガソリンだよ」とジョンはリンカーンに給油しながら話した。
 彼が言っていることはほとんど正解だ。ノンブランドのディーラーは大手石油会社が認めたジョバーと呼ばれる中間流通業者から
しばしば余剰のガソリンを仕入れる。だから、ノンブランドのディーラーは自らのステーションで、メジャーブランドとして販売されている
ガソリンと同じものを売っているといえるわけだ。ただ、メジャーブランドのガソリンには石油会社によってブランドを識別する添加材が
加えられるだけだ。また、ディーラーは添加剤が入っていないノンブランド・ガソリンをセント・ルイスのエーぺックス・オイルのような
精製会社から直接仕入れることも可能だ。エーペックス・オイルはガソリンを売ったり買ったりしている。

 大手石油会社は彼らが独自開発した添加剤にガソリンの品質を向上させる効果があると主張する。
しかし、これにはノンブランドのディーラーに異論がある。ノンブランドのディーラーは現在、全体のディーラーのごく一部でしかない。
とくに都市部やその近郊ではそうだ。1,000人の会員で構成するメリーランド州商業協会で、ノンブランドのディーラーは
わずか20から30人しかいない。
 前出のフィオレの説明によると、ブランド・ディーラーは、一般的に契約をするジョバーや石油会社がステーションが魅力的でないと
判断した場合でない限り、ノンプランド・ガソリン販売にスウィッチする機会はないという。ジョバーや石油会社がステーションを見限る
理由は様々だ。利益率や販売量、あるいはリースの問題、そして時としてフランチャイザーのジョバーや石油会社がその市場からの
撤退を決定するケースもある。  

しかし、フィオレはより多くのディーラーがチャンスさえあれば、ノンブランド化への道を選択するであろうと予想する。
「独立系ディーラーの視点に立てば、ノンブランド・ガソリンを取扱うことで、より高いマージンを手にする機会を得ることになるからね。
とくに現在のように価格が高騰している市場環境においてはそうなる」という。「仮に状況がよければ、ブランド・ディーラーよりも
ガロンあたり5〜10セントもの余分な儲けを出すことができるし、それでいてロードサイドでは安値でい続けられるからね」と説明する。  
こうした高マージンがマークや彼のビジネスパートナーにとって大きな魅力となっていることを証明している。
彼らはかって5カ所のブランドステーションを運営していたが、今はわずかにエクソンマークの1カ所だけだ。
「我われはノンブランドを志向している。だって、そこではすべてを自分たちでコントロールでるからね」とマークは語る。
かつてティモニアムのヨークロードの”ペトロ”ステーションはテキサコマークだった。かれはステーションをさらに発展させ、
洗車、コニビニ、そしてフランチャイズの”サブウェー”サンドイッチも加えた。  

現在のようにガソリン価格が高騰している状況下でブランドステーションに売り勝つことが可能なため、ランダルズタウンの
”チャーリーズ”サービスステーションではブランドステーションに比べ約25%も収益が多い。オーナーのクリス・ゴロケートは父親から
受け継いだそのステーションと駐車場を10年間経営している。ステーションは以前、エクソンマークだったが、エクソンが敷地が手狭との
理由から手を引いた1980年にノンブランドになった。それ以降、運営はやり易くなったとクリスは話す。  

ノンブランド・ディーラーとして、クリスはスポット市場でガソリンを仕入れる。
彼によると、コストをよりよくコントロールできるため、ブランド・ディーラーとの価格競争も可能だ。競合店がガロン1.99jで売っている時、
クリスは1.91jで販売している。仕入面の取引においてルートが短いため、コストもそれだけ安上がりとなる。「ラック渡しで直に買付けて
いる流通業者から仕入れているから、精製会社から流通業者の間に1セント、流通業者と当社の間に1セントの口銭があるだけ。
多くの会社を通さない分、仕入も安くつくというわけさ」とクリスは説明する。  

ドライバーが高値に文句をつける一方で、ディーラーも高値に不満を口にする。熾烈な競争がすでに削られたマージンをさらに一段と
薄くするからだ。「こうした上がり相場のもとで、小売業者や卸業者が利益を確保することは並大抵のことではない」とミッドアトランテック
石油流通協会の会長であるピーター・ホリガンは語る。上昇相場においては、仕入のたびに価格が上昇していくわけだから、マージンも薄くなる。  
しかし、価格変動が激しい市場はまた、ノンブランド・ディーラーにとってリスクを伴うことも意味している。それはつまり、ブランド市場の動きは
ノンプランド市場をタイムラグを置いて後追いするからだ。仮にスポット市場の価格が急上昇した場合、ノンブランド・ディーラーは販売価格の
引き上げを控え、仕入コストの上昇分を内部で吸収しつつ、競争力を保とうとすることもある。「給油客の流れを維持するため、仕入れコストの
上昇分を内部吸収するしかないね」とマークは言う。「ブランドステーションよりガロン4〜6セント低めの価格を維持することによって、
販売量を維持するわけで、もし、そうしなかったら、数量を失うことになる」と明かす。

 反対に価格がいったん下落に転じれば、ノンブランド・ディーラーは真っ先に店頭価格を引き下げる。そうしたやり方がコニビニチェーンの
一つで、ガソリンも販売している”ロイヤル・ファームズ”の商い手法でもある。”ロイヤル・ファームズ”は”エンロイ”(“Enroy”)という独自ブランドで
ガソリンを販売している。”エンロイ”(“Enroy”)とはエネルギー(Energy)とロイヤル(Royal)を組み合わせた造語だ。仕入の大部分は大手
リファイナリーから供給を受けている。“エンロイ”ブランドのガソリンは、エクソンのトレーダーが余剰品として販売しているものを仕入れたものだ。  
「ノンブランドであるということは、マーケットの誰からであろうと買付けができるということだ」と120カ所にのぼる店舗にガソリンステーションを
併設する“ロイヤル・ファームズ”の仕入担当者で、半分以上のガソリンを買付けているロブ・リネハルトは語る。
「それがノンブランドであることの利点であって、我われは毎日、20社にのぼるサプライヤーからガソリンを買付けている」。  
ロブによると、”ロイヤル・ファームズ”のガソリン事業は、大幅ではないが、前年に比べて伸びている。「当社はブランド店のいくつかのビジネスを
引き継いでいます。ただ、言われているほど多くはないですがね」とロブは話す。「人間は習性の生き物と言われていますが、価格意識の極めて
強い顧客層(price shoppers)がいて、そこに増収の源泉があるわけです」と付け加えた。ハムデンの41番街にあるロイヤル・ファームズの
ステーションでは10%も売上が伸びた。キャッシャーのパット・ブラウンは「どこへいってもガソリンの高騰についての文句ばかりですが、
でもそうした人達が安いから、ここで給油してくれるので売上も伸びるわけです」と述べた。

                       ・・・終わり